AIはどうやってポケモンカードをプレイするのか?

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前回の記事で、ポケモンカードのAIコンペ「ポケカABC」が始まったことを紹介しました。

この記事を書いていて、ふと疑問に思ったんです。

AIって、どうやってポケカをプレイするの?

人間のプレイヤーなら、カードのテキストを読んで、相手のデッキタイプを予想して、「ここはボスの指令を使おう」「先にたねポケモンを並べておこう」と考えますよね。

AIも同じように考えているのでしょうか?
それとも、まったく別のやり方でプレイしているのでしょうか?

今回は「AIエージェント」の基本的な仕組みを、ポケカプレイヤー目線でできるだけわかりやすく調べてみました。

※私自身はAIの専門家ではなく、今回のコンペをきっかけに調べ始めた初心者です。この記事は主に、三宅陽一郎・山本貴光『高校生のためのゲームで考える人工知能』(ちくまプリマー新書)や、ポケモンバトルAI「PokéLLMon」に関する解説記事などを参考にまとめています。詳しく知りたい方は記事末尾の参考文献もあわせてどうぞ。

「AIエージェント」って何?

ポケカABCで参加者が開発するのは「AIエージェント」と呼ばれるものです。

エージェントとは「代理人」という意味。つまり、プレイヤーの代わりにポケカをプレイしてくれるプログラムです。

ポケカの対戦で人間が行うことを思い出してみましょう。

  1. 手札を確認する
  2. 場の状況を把握する(自分のベンチ、相手のバトル場、サイドの残り枚数など)
  3. 選択肢を考える(どのカードを使うか、ワザを打つか、にげるか)
  4. 一番良さそうな行動を選ぶ
  5. これを毎ターン繰り返す

AIエージェントも、基本的にはこの流れをプログラムとして実行しています。ただし、「考え方」が人間とはかなり違います。

人間の考え方 vs AIの考え方

ここからが面白いところです。

人間のプレイヤーの場合

人間は「経験」と「直感」でプレイします。

例えば、相手がリザードンexのデッキを使っていると分かったら、「たぶん次のターンにはふしぎなアメで進化してくるだろう」と予測しますよね。これは過去の対戦経験やデッキレシピの知識から、無意識に判断しています。

また、「ここは博士の研究を使いたいけど、手札に残しておきたいカードがある……」というジレンマも、感覚的に天秤にかけています。

AIの場合

AIは「経験」も「直感」も持っていません。代わりに、大きく分けて2つのアプローチがあります。

アプローチ①:ルールベース(もし〇〇なら△△する)

一番シンプルなのが、ルールを人間が書いてあげる方法です。

「手札にたねポケモンがあったらベンチに出す」「エネルギーがついたらワザを使う」「HPが低いポケモンは優先的に攻撃する」……こういったルールをたくさん書いて、それに従ってプレイさせます。

ポケカをやっている人なら「それって要するにプレイングのセオリーをプログラムに書き起こすってことだよね」と思うかもしれません。まさにその通りです。ただ、この方法だと想定外の状況に弱く、人間が書いたルールにない場面では、とんちんかんな行動をとってしまいます。

アプローチ②:学習ベース(大量の対戦から自分で学ぶ)

もう一つのアプローチは、AIに大量の対戦を経験させて、自分で「何が良い手なのか」を学ばせる方法です。

これが機械学習、特に強化学習と呼ばれるものです。

強化学習のイメージは、こんな感じです。

最初のAIは、ほぼデタラメにカードを使う。当然、負ける。
でも「勝ったとき」と「負けたとき」の違いを記録していく。
何万回、何十万回と対戦を繰り返すうちに、「こういう場面ではこうしたほうが勝ちやすい」というパターンをAI自身が見つけていく。

ポケカのジムバトルに毎日通い詰めて、負けるたびにメモを取って改善していく——それを超高速で、何万回も繰り返すイメージです。

ポケカならではの難しさ

ここまで読んで「じゃあ対戦させまくればAIは強くなるんでしょ?」と思うかもしれません。理屈上はそうなのですが、ポケカにはAIにとってめちゃくちゃ厄介な要素がたくさんあります。

見えない情報が多すぎる

将棋や囲碁なら、盤面を見ればすべてわかります。でもポケカでは、相手の手札、山札の順番、サイドに落ちたカードが見えません。

人間のプレイヤーなら「相手はさっきから手札を温存している。たぶんジャッジかナンジャモを持っているな」と推測できますよね。これは表情や行動のパターンから読み取る、いわば「読み」の技術です。

AIにはこの「読み」がありません。代わりに、「相手の手札にそのカードがある確率はどのくらいか」を計算で求めます。人間の直感の代わりに、確率と統計を使うわけです。

選択肢が膨大

ポケカの1ターンで取りうる行動は、ものすごく多い。

たねポケモンをベンチに出す、エネルギーをつける、グッズを使う、サポートを使う、にげる、ワザを使う——これらの順番や組み合わせをすべて考えると、1ターンの選択肢が何百、何千にもなることがあります。

将棋の1手の選択肢は平均80手程度と言われていますが、ポケカの1ターンは「複数の行動の組み合わせ」なので、分岐が桁違いに多くなるケースがあるんです。

運の要素

コイントスやデッキトップのドローなど、運に左右される要素がポケカには欠かせません。

AIは「運」を扱うのが苦手……というより、「運が絡む場面で最善の判断をする」ことが難しいんです。「このワザを使えばコインが表ならサイド2枚取れるけど、裏なら何も起こらない」——こういう場面で、期待値を計算して判断するのがAIのやり方です。

でも、人間のトッププレイヤーは「ここは勝負どころだからコイントスに賭ける」「この場面はリスクを取らない方が安全」と、試合全体の流れを考えて判断しますよね。この「流れを読む」感覚を数値化するのは、かなり難しい課題です。

実はもう「ポケモンAI」は存在する

ポケカではありませんが、ポケモンバトル(シングルバトル)のAIはすでに研究されています。

2024年にジョージア工科大学の研究者が発表した「PokéLLMon」は、大規模言語モデル(いわゆるChatGPTのようなAI)を使ってポケモンバトルをプレイするAIエージェントです。

PokéLLMonの面白いところは、従来の「大量の対戦データから学習する」アプローチとは違い、テキストで状況を理解して判断するという方法を取っていること。ポケモンのタイプ相性や技の効果を文章として読み込み、「今この状況なら何をすべきか」をAIが考えて行動します。

その結果、人間のプレイヤーに対して約56%の勝率を記録したと報告されています。

ただし、面白い弱点もありました。強いポケモンに遭遇すると「パニックスイッチング」(焦って交代を繰り返してしまう現象)が起きたり、同じ効果のない技を延々と撃ち続けてしまうこともあったそうです。

これ、ポケモン対戦をやっている人なら「あるある」と思いませんか?初心者がパニックになって交代を繰り返す姿、なんだかAIも同じなんですね。

PokéLLMonについてはITmediaの記事「AIがポケモンバトルをしたら? 15年以上の熟練プレイヤーとの戦いで勝率56%」やhamaruki.comの日本語訳記事で詳しく読むことができます(参考文献を参照)。。

過去のカードゲームAI

ポケモン以外のカードゲームでは、さらに研究が進んでいます。

ポーカーAIは最も研究が進んでいる分野の一つです。2017年にはCarnegie Mellon大学の「Libratus」がポーカーのプロ4人に完勝し、2019年には「Pluribus」が6人対戦のポーカーで人間を上回りました。

ただし、ポーカーはカードの種類が52枚で、ルールもポケカに比べるとシンプルです。ポケカの数千種類のカード、進化、特性、タイプ相性といった要素を考えると、複雑さのレベルが全然違います。

他にも、中国のカードゲーム「斗地主(ドウディズー)」のAI「DouZero」や、麻雀AI「Suphx」なども不完全情報ゲームのAIとして注目されています。

ポケカABCの参加者はどんなAIをつくる?

ポケカABCでは、参加者はこうしたアプローチを自由に組み合わせてAIを開発します。

おそらく最初は「ルールベース」のシンプルなAIから始めて、徐々に「学習ベース」の要素を加えていく、という流れになるのではないでしょうか。ストラテジー部門ではAI開発の工夫も評価されるので、「どんな戦略でAIを設計したか」というレポートも重要です。

ポケカプレイヤーのデッキ構築やプレイングのノウハウが、AI開発の大きなヒントになります。

現にXでは「ポケカドメイン知識あります!」と自分を売り出したり、本コンペ参加にあたりkaggleをメインに活動する方がポケカの実績・知識を持ったチームメイトを求めるポストが多く見られました。

まとめ:AIは「考えて」いるのか?

結論から言うと、AIは人間のようには「考えて」いません。

人間は経験や直感でプレイしますが、AIは「確率」と「パターン」でプレイします。カードのテキストを読んで理解しているわけではなく、「この状況でこの行動をとると勝率が何%上がる」という数字で判断しています。(PokéLLMonのような「テキストを読んで考えるAI」もありますが、それでも人間の理解とは根本的に異なります。)

人間には思いつかないような手をAIが打つかもしれない。あるいは、人間のトッププレイヤーが当たり前にやっていることが、AIにはできないかもしれない。

次回は「なぜポケモンカードはAI研究の題材になるのか」をさらに掘り下げてみます。ポケカが持つ「ゲームとしての特徴」が、実はAI研究にとってすごく魅力的な理由を見ていきましょう。


この記事を書くにあたって参考にしたもの

書籍(ゲームAIを初心者でも学べるもの)

  • 三宅陽一郎・山本貴光『高校生のためのゲームで考える人工知能』(ちくまプリマー新書、2018年)
    • ゲームの中のAIがどう「考えて」動いているかを、高校生にもわかるレベルで解説した本。プログラミングの知識がなくても読めます。今回の記事のベースはかなりこの本に助けられました。
  • 三宅陽一郎『人工知能の作り方——「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか』(技術評論社、2017年)
    • もう少し踏み込みたい人向け。ゲームAIの「面白さ」を軸に、キャラクターAIの仕組みを体系的に解説しています。

Web記事(ポケモン×AIの先行事例)

ポケカABCの同時進行レポート

  • venom@AI活用生活「ポケモンカードゲームでAIを戦わせる大会が始まった」(note、2026年6月)
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