「まもる」はなぜZ-Aで別の技になったのか — CEDEC2026で語られたポケモンバトルの設計思想

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2026年8月28日から30日にかけて、アメリカ・サンフランシスコでポケモンワールドチャンピオンシップス(WCS2026)が開催されます。今大会からゲーム部門の対象タイトルが『Pokémon Champions』に切り替わったのはご存じの通りです。Switch版は4月に、スマホ版は6月に配信が始まった基本プレイ無料のタイトルで、Switchとスマホ間のクロスプレイに対応し、ランクバトルではメガシンカも解禁されています(レギュレーションM-B、メガムクホークなども使用可能)。

その「対戦の土俵」を裏側で支えているバトルシステムの仕組みについて、興味深い話が7月に飛び込んできました。7月22日から24日にパシフィコ横浜ノースで開催されたCEDEC2026で、ゲームフリークの研究開発部に所属し「ポケモンバトルチーム」を兼務するプログラマーの宗像快氏と小幡敏宏氏が、「ポケモン勝負の進化を支える、バトルシステムの基盤設計と運用事例」と題した講演を行ったのです。

この記事でわかること

  • ポケモンのバトルシステムが相手にしているデータ量の規模
  • 『サン・ムーン』を区切りに行われたバトルシステム全面刷新の狙い
  • Z-Aの「まもる」が別物の処理に作り替えられた理由
  • ターン制とZ-Aで共通している部分・違う部分

ファミ通や4Gamerがレポートを公開しており(ファミ通4Gamer)、対戦を軸に遊んでいるプレイヤーほど「へえ、そうなっていたのか」と唸る内容だったので、この記事でかみ砕いて紹介します。

数字で見るポケモンバトルの複雑さ

まず驚くのが、バトルロジックが相手にしている数の多さです。講演では、次の規模がバトル中の処理に関わってくる、という数字が示されました。

要素講演で示された規模
ポケモン1000種を超える
900種以上
特性300種以上
持ち物200種以上

これらすべての組み合わせを矛盾なく成立させるのが「バトルシステム」の役割です。

この規模のシステムは一朝一夕にできたものではありません。もともとポケモンのバトルシステムは、前作のコードを拡張しながら20年近くにわたって作り継がれてきたものだったそうです。ところがシリーズを重ねるごとに仕様は複雑化し、開発するタイトルのラインも増えていったことで、保守性や拡張性の面で課題を抱えるようになっていきました。そこで『サン・ムーン』を一つの区切りとして、バトルシステムを全面的に作り直すプロジェクトが動き出した、と紹介されています。

このとき掲げられたキーワードが「構造化」と「拡張性」でした。行き当たりばったりの拡張ではなく、後から仕様を足しても壊れない土台を作る、という方向転換です。

この「構造化」の効果が最もわかりやすい形で表れているのが、次に紹介する「まもる」の話です。

「まもる」はなぜZ-Aで別の技になったのか

『ポケモンレジェンズZ-A』は、これまでのターン制バトルから一転してリアルタイムのアクションバトルを採用しています。技を出すタイミングも、避けるタイミングもプレイヤーの操作次第。ここで壁になったのが、ターン制のために作られていた「まもる」でした。

ターン制のバトルにおける「まもる」は、相手の技そのものを不発に終わらせる処理です。技が発動しようとする瞬間に割り込み、そこで処理を止めてしまえば、以降のダメージ計算に進む必要すらありません。「発動そのものを失敗させる」という、いわば入口で技を止めるやり方です。

ところがリアルタイムバトルではこの前提が崩れます。プレイヤーは常に動き回っていて、技が「発動する瞬間」とプレイヤーが「まもるを構える瞬間」を正確に一致させるのは現実的ではありません。相手の攻撃はもう発動してしまっていて、こちらに向かって飛んでくる。そこで押し返す必要があるわけです。

観点ターン制Z-A
タイミング技が発動する技が当たった後
処理内容技の発動そのものを失敗させる一定時間だけ防御姿勢を取り、その間のダメージをゼロにする
止める場所入口(発動判定)出口(ダメージ付与)
技の効果変わっていない(無効化という目的は同じ)

ここで面白いのは、まもるという技の効果そのものは変えていない、と整理されている点です。変わったのは、無効化という同じ目的を果たすために、システムのどのタイミングに反応させるかという「差し込む場所」だけ。技の仕様や強さを個別に作り直したのではなく、あらかじめ構造化しておいた土台の中で、反応する部品を発動前の位置から着弾後の位置へ差し替えただけ、というわけです。

前のブロックで触れた「構造化」の効果が、まさにここで生きています。もし旧来のバトルシステムのまま『Z-A』を作ろうとしていたら、まもる一つとってもゼロから設計し直す羽目になっていたはずで、そう考えるとこの再構築がいかに大きな投資だったかが見えてきます。

Z-Aでも変わらない土台

「まもる」の実装が変わったと聞くと、Z-Aのバトルはターン制と別物のシステムで動いているように思えるかもしれません。ですが講演では逆で、Z-Aもターン制と同じバトルシステム・同じゲームロジックの上で動いている、という点が明確に説明されていました。

具体的には、技を出したときに「発動判定」を行い、実際に技を実行し、最後に「ダメージ付与」の処理へ進む、という一連の流れそのものはターン制とZ-Aで共通しているそうです。異なっているのは、その途中にある命中判定の部分だけです。

発動判定 → 命中判定 → 技の実行 → ダメージ付与

ターン制:命中率にもとづく抽選で当たり外れを決める
Z-A:実際に技が相手に接触したかどうかの当たり判定に置き換わる

土台となる処理の流れはそのままに、判定材料だけをリアルタイム向けに差し替えている形です。

「まもる」の差し替えと合わせて見ると、Z-Aのバトルは「ターン制のロジックをアクション用に改造したもの」というより、「共通の土台に、リアルタイム用の反応の仕方を追加で組み込んだもの」に近いことがわかります。共通化されている部分が大きいからこそ、片方だけ挙動を変えたいときも、影響範囲を絞って手を入れられる、ということなのでしょう。

まとめ

ターン制の「まもる」が入口で技を止め、Z-Aの「まもる」が着弾後の被害を打ち消す。挙動としては別の技に見えても、その裏では同じ土台の上で反応先を差し替えているだけだった、というのが今回の講演の核だと感じました。

こうして振り返ると、バトルだけを一つの仕組みとして切り出し、Switch向けのターン制タイトルにも、スマホを含むクロスプレイ対応の『Champions』にも載せられたのは、この構造化された基盤があってこそだったのかもしれません。WCS2026の対戦を眺めるとき、画面の裏側でこうした地道な作り直しが支えているのだと思うと、いつもより少し見え方が変わってくるのではないでしょうか。

なお、講演の詳しい模様はCEDEC2026のタイムシフト配信(8月4日10時まで、要視聴パス)でも公開されています。気になる方はレポート記事と合わせてチェックしてみてください。

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